みだれ髪

与謝野晶子 · 0/58

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情熱を隠さない明治の女。与謝野晶子の燃えるような恋の歌。

第一章 この書の体裁は悉
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この書の体裁は悉く藤…第一章 この書の体裁は悉

この書の体裁は悉く藤島武二先生の意匠に成れり表紙画みだれ髪の輪郭は恋愛の矢のハートを射たるにて矢の根より吹き出でたる花は詩を意味せるなり臙脂紫夜の帳にささめき尽きし星の今を下界の人の鬢のほつれよ歌にきけな誰れ野の花に紅き否むおもむきあるかな春罪もつ子髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ血ぞもゆるかさむひと夜の夢のやど春を行く人神おとしめな

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椿それも梅もさなりき…第一章 この書の体裁は悉

椿それも梅もさなりき白かりきわが罪問はぬ色桃に見るその子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな堂の鐘のひくきゆふべを前髪の桃のつぼみに経たまへ君紫にもみうらにほふみだれ篋をかくしわづらふ宵の春の神臙脂色は誰にかたらむ血のゆらぎ春のおもひのさかりの命紫の濃き虹説きしさかづきに映る春の子眉毛かぼそき紺青を絹にわが泣く春の暮やまぶきがさね友歌ねびぬ

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まゐる酒に灯あかき宵…第一章 この書の体裁は悉

まゐる酒に灯あかき宵を歌たまへ女はらから牡丹に名なき海棠にえうなくときし紅すてて夕雨みやる瞳よたゆき水にねし嵯峨の大堰のひと夜神絽蚊帳の裾の歌ひめたまへ春の国恋の御国のあさぼらけしるきは髪か梅花のあぶら今はゆかむさらばと云ひし夜の神の御裾さはりてわが髪ぬれぬ細きわがうなじにあまる御手のべてささへたまへな帰る夜の神清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき

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秋の神の御衣より曳く…第一章 この書の体裁は悉

秋の神の御衣より曳く白き虹ものおもふ子の額に消えぬ経はにがし春のゆふべを奥の院の二十五菩薩歌うけたまへ山ごもりかくてあれなのみをしへよ紅つくるころ桃の花さかむとき髪に室むつまじの百合のかをり消えをあやぶむ夜の淡紅色よ雲ぞ青き来し夏姫が朝の髪うつくしいかな水に流るる夜の神の朝のり帰る羊とらへちさき枕のしたにかくさむみぎはくる牛かひ男歌あれな秋のみづうみあまりさびしき

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やは肌のあつき血汐に…第一章 この書の体裁は悉

やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君許したまへあらずばこその今のわが身うすむらさきの酒うつくしきわすれがたきとのみに趣味をみとめませ説かじ紫その秋の花人かへさず暮れむの春の宵ごこち小琴にもたす乱れ乱れ髪たまくらに鬢のひとすぢきれし音を小琴と聞きし春の夜の夢春雨にぬれて君こし草の門よおもはれ顔の海棠の夕小草いひぬ『酔へる涙の色にさかむそれまで斯くて覚めざれな少女』

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牧場いでて南にはしる…第一章 この書の体裁は悉

牧場いでて南にはしる水ながしさても緑の野にふさふ君春よ老いな藤によりたる夜の舞殿ゐならぶ子らよ束の間老いな雨みゆるうき葉しら蓮絵師の君に傘まゐらする三尺の船御相いとどしたしみやすきなつかしき若葉木立の中の盧遮那仏さて責むな高きにのぼり君みずや紅の涙の永劫のあと春雨にゆふべの宮をまよひ出でし小羊君をのろはしの我れゆあみする泉の底の小百合花二十の夏をうつくしと見ぬ

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みだれごこちまどひご…第一章 この書の体裁は悉

みだれごこちまどひごこちぞ頻なる百合ふむ神に乳おほひあへずくれなゐの薔薇のかさねの唇に霊の香のなき歌のせますな旅のやど水に端居の僧の君をいみじと泣きぬ夏の夜の月春の夜の闇の中くるあまき風しばしかの子が髪に吹かざれ水に飢ゑて森をさまよふ小羊のそのまなざしに似たらずや君誰ぞ夕ひがし生駒の山の上のまよひの雲にこの子うらなへ悔いますなおさへし袖に折れし剣つひの理想の花に刺あらじ

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額ごしに暁の月みる加…第一章 この書の体裁は悉

額ごしに暁の月みる加茂川の浅水色のみだれ藻染よ御袖くくりかへりますかの薄闇の欄干夏の加茂川の神なほ許せ御国遠くば夜の御神紅盃船に送りまゐらせむ狂ひの子われに焔の翅かろき百三十里あわただしの旅今ここにかへりみすればわがなさけ闇をおそれぬめしひに似たりうつくしき命を惜しと神のいひぬ願ひのそれは果してし今わかき小指胡紛をとくにまどひあり夕ぐれ寒き木蓮の花ゆるされし朝よそほひのしばらくを君に歌へな山の鶯

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ふしませとその間さが…第一章 この書の体裁は悉

ふしませとその間さがりし春の宵衣桁にかけし御袖かづきぬみだれ髪を京の島田にかへし朝ふしてゐませの君ゆりおこすしのび足に君を追ひゆく薄月夜右のたもとの文がらおもき紫に小草が上へ影おちぬ野の春かぜに髪けづる朝絵日傘をかなたの岸の草になげわたる小川よ春の水ぬるきしら壁へ歌ひとつ染めむねがひにて笠はあらざりき二百里の旅嵯峨の君を歌に仮せなの朝のすさびすねし鏡のわが夏姿

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ふさひ知らぬ新婦かざ…第一章 この書の体裁は悉

ふさひ知らぬ新婦かざすしら萩に今宵の神のそと片笑みしひと枝の野の梅をらば足りぬべしこれかりそめのかりそめの別れ鶯は君が夢よともどきながら緑のとばりそとかかげ見る紫の紅の滴り花におちて成りしかひなの夢うたがふなほととぎす嵯峨へは一里京へ三里水の清瀧夜の明けやすき紫の理想の雲はちぎれ/\仰ぐわが空それはた消えぬ乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き

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第二章 神の背にひろきな
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神の背にひろきながめ…第二章 神の背にひろきな

神の背にひろきながめをねがはずや今かたかたの袖こむらさきとや心朝の小琴の四つの緒のひとつを永久に神きりすてしひく袖に片笑もらす春ぞわかき朝のうしほの恋のたはぶれくれの春隣すむ画師うつくしき今朝山吹に声わかかりし郷人にとなり邸のしら藤の花はとのみに問ひもかねたる人にそひて樒ささぐるこもり妻母なる君を御墓に泣きぬなにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな

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おばしまにおもひはて…第二章 神の背にひろきな

おばしまにおもひはてなき身をもたせ小萩をわたる秋の風見るゆあみして泉を出でしわがはだにふるるはつらき人の世のきぬ売りし琴にむつびの曲をのせしひびき逢魔がどきの黒百合折れぬうすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる夜風の青き恋ならぬねざめたたずむ野のひろさ名なし小川のうつくしき夏このおもひ何とならむのまどひもちしその昨日すらさびしかりし我れおりたちてうつつなき身の牡丹見ぬそぞろや夜を蝶のねにこし

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その涙のごふえにしは…第二章 神の背にひろきな

その涙のごふえにしは持たざりきさびしの水に見し二十日月水十里ゆふべの船をあだにやりて柳による子ぬかうつくしき(をとめ)旅の身の大河ひとつまどはむや徐かに日記の里の名けしぬ(旅びと)小傘とりて朝の水くみ我とこそ穂麦あをあを小雨ふる里おとに立ちて小川をのぞく乳母が小窓小雨のなかに山吹のちる恋か血か牡丹に尽きし春のおもひとのゐの宵のひとり歌なき長き歌を牡丹にあれの宵の殿妻となる身の我れぬけ出でし

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春三月柱おかぬ琴に音…第二章 神の背にひろきな

春三月柱おかぬ琴に音たてぬふれしそぞろの宵の乱れ髪いづこまで君は帰るとゆふべ野にわが袖ひきぬ翅ある童ゆふぐれの戸に倚り君がうたふ歌『うき里去りて往きて帰らじ』さびしさに百二十里をそぞろ来ぬと云ふ人あらばあらば如何ならむ君が歌に袖かみし子を誰と知る浪速の宿は秋寒かりきその日より魂にわかれし我れむくろ美しと見ば人にとぶらへ今の我に歌のありやを問ひますな柱なき繊絃これ二十五絃

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神のさだめ命のひびき…第二章 神の背にひろきな

神のさだめ命のひびき終の我世琴に斧うつ音ききたまへ人ふたり無才の二字を歌に笑みぬ恋二万年ながき短き蓮の花船漕ぎかへる夕船おそき僧の君紅蓮や多きしら蓮や多きあづまやに水のおときく藤の夕はづしますなのひくき枕よ御袖ならず御髪のたけときこえたり七尺いづれしら藤の花夏花のすがたは細きくれなゐに真昼いきむの恋よこの子よ肩おちて経にゆらぎのそぞろ髪をとめ有心者春の雲こき

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とき髪を若枝にからむ…第二章 神の背にひろきな

とき髪を若枝にからむ風の西よ二尺に足らぬうつくしき虹うながされて汀の闇に車おりぬほの紫の反橋の藤われとなく梭の手とめし門の唄姉がゑまひの底はづかしきゆあがりのみじまひなりて姿見に笑みし昨日の無きにしもあらず人まへを袂すべりしきぬでまり知らずと云ひてかかへてにげぬひとつ篋にひひなをさめて蓋とぢて何となき息桃にはばかるほの見しは奈良のはづれの若葉宿うすまゆずみのなつかしかりし

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紅に名の知らぬ花さく…第二章 神の背にひろきな

紅に名の知らぬ花さく野の小道いそぎたまふな小傘の一人くだり船昨夜月かげに歌そめし御堂の壁も見えず見えずなりぬ師の君の目を病みませる庵の庭へうつしまゐらす白菊の花文字ほそく君が歌ひとつ染めつけぬ玉虫ひめし小筥の蓋にゆふぐれを籠へ鳥よぶいもうとの爪先ぬらす海棠の雨ゆく春をえらびよしある絹袷衣ねびのよそめを一人に問ひぬぬしいはずとれなの筆の水の夕そよ墨足らぬ撫子がさね

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母よびてあかつき問ひ…第二章 神の背にひろきな

母よびてあかつき問ひし君といはれそむくる片頬柳にふれぬのろひ歌かきかさねたる反古とりて黒き胡蝶をおさへぬるかな額しろき聖よ見ずや夕ぐれを海棠に立つ春夢見姿笛の音に法華経うつす手をとどめひそめし眉よまだうらわかき白檀のけむりこなたへ絶えずあふるにくき扇をうばひぬるかな母なるが枕経よむかたはらのちひさき足をうつくしと見きわが歌に瞳のいろをうるませしその君去りて十日たちにけり

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かたみぞと風なつかし…第二章 神の背にひろきな

かたみぞと風なつかしむ小扇のかなめあやふくなりにけるかな春の川のりあひ舟のわかき子が昨夜の泊の唄ねたましき泣かで急げやは手にはばき解くえにしえにし持つ子の夕を待たむ燕なく朝をはばきの紐ぞゆるき柳かすむやその家のめぐり小川われ村のはづれの柳かげに消えぬ姿を泣く子朝見し鶯に朝寒からぬ京の山おち椿ふむ人むつまじき道たま/\蓮月が庵のあとに出でぬ梅に相行く西の京の山

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君が前に李青蓮説くこ…第二章 神の背にひろきな

君が前に李青蓮説くこの子ならずよき墨なきを梅にかこつなあるときはねたしと見たる友の髪に香の煙のはひかかるかなわが春の二十姿と打ぞ見ぬ底くれなゐのうす色牡丹春はただ盃にこそ注ぐべけれ智慧あり顔の木蓮や花さはいへど君が昨日の恋がたりひだり枕の切なき夜半よ人そぞろ宵の羽織の肩うらへかきしは歌か芙蓉といふ文字琴の上に梅の実おつる宿の昼よちかき清水に歌ずする君

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第三章 うたたねの君がか
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うたたねの君がかたへ…第三章 うたたねの君がか

うたたねの君がかたへの旅づつみ恋の詩集の古きあたらしき戸に倚りて菖蒲売る子がひたひ髪にかかる薄靄にほひある朝五月雨もむかしに遠き山の庵通夜する人に卯の花いけぬ四十八寺そのひと寺の鐘なりぬ今し江の北雨雲ひくき人の子にかせしは罪かわがかひな白きは神になどゆづるべきふりかへり許したまへの袖だたみ闇くる風に春ときめきぬ夕ふるはなさけの雨よ旅の君ちか道とはで宿とりたまへ

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巌をはなれ谿をくだり…第三章 うたたねの君がか

巌をはなれ谿をくだりて躑躅をりて都の絵師と水に別れぬ春の日を恋に誰れ倚るしら壁ぞ憂きは旅の子藤たそがるる油のあと島田のかたと今日知りし壁に李の花ちりかかるうなじ手にひくきささやき藤の朝をよしなやこの子行くは旅の君まどひなくて経ずする我と見たまふか下品の仏上品の仏ながしつる四つの笹舟紅梅を載せしがことにおくれて往きぬ奥の室のうらめづらしき初声に血の気のぼりし面まだ若き

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人の歌をくちずさみつ…第三章 うたたねの君がか

人の歌をくちずさみつつ夕よる柱つめたき秋の雨かな小百合さく小草がなかに君まてば野末にほひて虹あらはれぬかしこしといなみにいひて我とこそその山坂を御手に倚らざりし鳥辺野は御親の御墓あるところ清水坂に歌はなかりき御親まつる墓のしら梅中に白く熊笹小笹たそがれそめぬ男きよし載するに僧のうらわかき月にくらしの蓮の花船経にわかき僧のみこゑの片明り月の蓮船兄こぎかへる

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浮葉きるとぬれし袂の…第三章 うたたねの君がか

浮葉きるとぬれし袂の紅のしづく蓮にそそぎてなさけ教へむこころみにわかき唇ふれて見れば冷かなるよしら蓮の露明くる夜の河はばひろき嵯峨の欄きぬ水色の二人の夏よ藻の花のしろきを摘むと山みづに文がら濡ぢぬうすものの袖牛の子を木かげに立たせ絵にうつす君がゆかたに柿の花ちる誰が筆に染めし扇ぞ去年までは白きをめでし君にやはあらぬおもざしの似たるにまたもまどひけりたはぶれますよ恋の神々

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五月雨に築土くづれし…第三章 うたたねの君がか

五月雨に築土くづれし鳥羽殿のいぬゐの池におもだかさきぬつばくらの羽にしたたる春雨をうけてなでむかわが朝寝髪しら菊を折りてゑまひし朝すがた垣間みしつと人の書きこし八つ口をむらさき緒もて我れとめじひかばあたへむ三尺の袖春かぜに桜花ちる層塔のゆふべを鳩の羽に歌そめむ憎からぬねたみもつ子とききし子の垣の山吹歌うて過ぎぬおばしまのその片袖ぞおもかりし鞍馬を西へ流れにし霞

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ひとたびは神より更に…第三章 うたたねの君がか

ひとたびは神より更ににほひ高き朝をつつみし練の下襲白百合月の夜の蓮のおばしま君うつくしうら葉の御歌わすれはせずよたけの髪をとめ二人に月うすき今宵しら蓮色まどはずや荷葉なかば誰にゆるすの上の御句ぞ御袖片取るわかき師の君おもひおもふ今のこころに分ち分かず君やしら萩われやしろ百合いづれ君ふるさと遠き人の世ぞと御手はなちしは昨日の夕三たりをば世にうらぶれしはらからとわれ先づ云ひぬ西の京の宿

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今宵まくら神にゆづら…第三章 うたたねの君がか

今宵まくら神にゆづらぬやは手なりたがはせまさじ白百合の夢夢にせめてせめてと思ひその神に小百合の露の歌ささやきぬ次のまのあま戸そとくるわれをよびて秋の夜いかに長きみぢかき友のあしのつめたかりきと旅の朝わかきわが師に心なくいひぬひとまおきてをりをりもれし君がいきその夜しら梅だくと夢みしいはず聴かずただうなづきて別れけりその日は六日二人と一人もろ羽かはし掩ひしそれも甲斐なかりきうつくしの友西の京の秋

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星となりて逢はむそれ…第三章 うたたねの君がか

星となりて逢はむそれまで思ひ出でな一つふすまに聞きし秋の声人の世に才秀でたるわが友の名の末かなし今日秋くれぬ星の子のあまりによわし袂あげて魔にも鬼にも勝たむと云へな百合の花わざと魔の手に折らせおきて拾ひてだかむ神のこころかしろ百合はそれその人の高きおもひおもわは艶ふ紅芙蓉とこそさはいへどそのひと時よまばゆかりき夏の野しめし白百合の花友は二十ふたつこしたる我身なりふさはずあらじ恋と伝へむ

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その血潮ふたりは吐か…第三章 うたたねの君がか

その血潮ふたりは吐かぬちぎりなりき春を山蓼たづねますな君秋を三人椎の実なげし鯉やいづこ池の朝かぜ手と手つめたきかの空よ若狭は北よわれ載せて行く雲なきか西の京の山ひと花はみづから渓にもとめきませ若狭の雪に堪へむ紅『筆のあとに山居のさまを知りたまへ』人への人の文さりげなき京はもののつらきところと書きさして見おろしませる加茂の河しろき恨みまつる湯におりしまの一人居を歌なかりきの君へだてあり

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秋の衾あしたわびし身…第三章 うたたねの君がか

秋の衾あしたわびし身うらめしきつめたきためし春の京に得ぬわすれては谿へおりますうしろ影ほそき御肩に春の日よわき京の鐘この日このとき我れあらずこの日このとき人と人を泣きぬ琵琶の海山ごえ行かむいざと云ひし秋よ三人よ人そぞろなりし京の水の深み見おろし秋を人の裂きし小指の血のあと寒き山蓼のそれよりふかきくれなゐは梅よはばかれ神にとがおはむ魔のまへに理想くだきしよわき子と友のゆふべをゆびさしますな

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第四章 魔のわざを神のさ
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魔のわざを神のさだめ…第四章 魔のわざを神のさ

魔のわざを神のさだめと眼を閉ぢし友の片手の花あやぶみぬ歌をかぞへその子この子にならふなのまだ寸ならぬ白百合の芽よはたち妻露にさめて瞳もたぐる野の色よ夢のただちの紫の虹やれ壁にチチアンが名はつらかりき湧く酒がめを夕に秘めな何となきただ一ひらの雲に見ぬみちびきさとし聖歌のにほひ神にそむきふたたびここに君と見ぬ別れの別れさいへ乱れじ淵の水になげし聖書を又もひろひ空仰ぎ泣くわれまどひの子

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聖書だく子人の御親の…第四章 魔のわざを神のさ

聖書だく子人の御親の墓に伏して弥勒の名をば夕に喚びぬ神ここに力をわびぬとき紅のにほひ興がるめしひの少女痩せにたれかひなもる血ぞ猶わかき罪を泣く子と神よ見ますなおもはずや夢ねがはずや若人よもゆるくちびる君に映らずや君さらば巫山の春のひと夜妻またの世までは忘れゐたまへあまきにがき味うたがひぬ我を見てわかきひじりの流しにし涙歌に名は相問はざりきさいへ一夜ゑにしのほかの一夜とおぼすな

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水の香をきぬにおほひ…第四章 魔のわざを神のさ

水の香をきぬにおほひぬわかき神草には見えぬ風のゆるぎよゆく水のざれ言きかす神の笑まひ御歯あざやかに花の夜あけぬ百合にやる天の小蝶のみづいろの翅にしつけの糸をとる神ひとつ血の胸くれなゐの春のいのちひれふすかをり神もとめよるわがいだくおもかげ君はそこに見む春のゆふべの黄雲のちぎれむねの清水あふれてつひに濁りけり君も罪の子我も罪の子うらわかき僧よびさます春の窓ふり袖ふれて経くづれきぬ

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今日を知らず智慧の小…第四章 魔のわざを神のさ

今日を知らず智慧の小石は問はでありき星のおきてと別れにし朝春にがき貝多羅葉の名をききて堂の夕日に友の世泣きぬふた月を歌にただある三本樹加茂川千鳥恋はなき子ぞわかき子が乳の香まじる春雨に上羽を染めむ白き鳩われ夕ぐれを花にかくるる小狐のにこ毛にひびく北嵯峨の鐘見しはそれ緑の夢のほそき夢ゆるせ旅人かたり草なき胸と胸とおもひことなる松のかぜ友の頬を吹きぬ我頬を吹きぬ

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野茨をりて髪にもかざ…第四章 魔のわざを神のさ

野茨をりて髪にもかざし手にもとり永き日野辺に君まちわびぬ春を説くなその朝かぜにほころびし袂だく子に君こころなき春をおなじ急瀬さばしる若鮎の釣緒の細緒くれなゐならぬみなぞこにけぶる黒髪ぬしや誰れ緋鯉のせなに梅の花ちる秋を人のよりし柱にとがめあり梅にことかるきぬぎぬの歌京の山のこぞめしら梅人ふたりおなじ夢みし春と知りたまへなつかしの湯の香梅が香山の宿の板戸によりて人まちし闇

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詞にも歌にもなさじわ…第四章 魔のわざを神のさ

詞にも歌にもなさじわがおもひその日そのとき胸より胸に歌にねて昨夜梶の葉の作者見ぬうつくしかりき黒髪の色下京や紅屋が門をくぐりたる男かはゆし春の夜の月枝折戸あり紅梅さけり水ゆけり立つ子われより笑みうつくしきしら梅は袖に湯の香は下のきぬにかりそめながら君さらばさらば二十とせの我世の幸はうすかりきせめて今見る夢やすかれな二十とせのうすきいのちのひびきありと浪華の夏の歌に泣きし君

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かづくきぬにその間の…第四章 魔のわざを神のさ

かづくきぬにその間の床の梅ぞにくき昔がたりを夢に寄する君それ終に夢にはあらぬそら語り中のともしびいつ君きえし君ゆくとその夕ぐれに二人して柱にそめし白萩の歌なさけあせし文みて病みておとろへてかくても人を猶恋ひわたる夜の神のあともとめよるしら綾の鬢の香朝の春雨の宿その子ここに夕片笑みの二十びと虹のはしらを説くに隠れぬこのあした君があげたるみどり子のやがて得む恋うつくしかれな

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恋の神にむくいまつり…第四章 魔のわざを神のさ

恋の神にむくいまつりし今日の歌ゑにしの神はいつ受けまさむかくてなほあくがれますか真善美わが手の花はくれなゐよ君くろ髪の千すぢの髪のみだれ髪かつおもひみだれおもひみだるるそよ理想おもひにうすき身なればか朝の露草人ねたかりしとどめあへぬそぞろ心は人しらむくづれし牡丹さぎぬに紅き『あらざりき』そは後の人のつぶやきし我には永久のうつくしの夢行く春の一絃一柱におもひありさいへ火かげのわが髪ながき

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のらす神あふぎ見する…第四章 魔のわざを神のさ

のらす神あふぎ見するに瞼おもきわが世の闇の夢の小夜中そのわかき羊は誰に似たるぞの瞳の御色野は夕なりしあえかなる白きうすものまなじりの火かげの栄の詛はしき君紅梅にそぞろゆきたる京の山叔母の尼すむ寺は訪はざりしくさぐさの色ある花によそはれし棺のなかの友うつくしき五つとせは夢にあらずよみそなはせ春に色なき草ながき里すげ笠にあるべき歌と強ひゆきぬ若葉よ薫れ生駒葛城

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裾たるる紫ひくき根な…第四章 魔のわざを神のさ

裾たるる紫ひくき根なし雲牡丹が夢の真昼しづけき紫のわが世の恋のあさぼらけ諸手のかをり追風ながきこのおもひ真昼の夢と誰か云ふ酒のかをりのなつかしき春みどりなるは学びの宮とさす神にいらへまつらで摘む夕すみれそら鳴りの夜ごとのくせぞ狂ほしき汝よ小琴よ片袖かさむ(琴に)ぬしえらばず胸にふれむの行く春の小琴とおぼせ眉やはき君(琴のいらへて)去年ゆきし姉の名よびて夕ぐれの戸に立つ人をあはれと思ひぬ

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第五章 十九のわれすでに
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十九のわれすでに菫を…第五章 十九のわれすでに

十九のわれすでに菫を白く見し水はやつれぬはかなかるべきひと年をこの子のすがた絹に成らず画の筆すてて詩にかへし君白きちりぬ紅きくづれぬ床の牡丹五山の僧の口おそろしき今日の身に我をさそひし中の姉小町のはてを祈れと去にぬ秋もろし春みじかしをまどひなく説く子ありなば我れ道きかむさそひ入れてさらばと我手はらひます御衣のにほひ闇やはらかき病みてこもる山の御堂に春くれぬ今日文ながき絵筆とる君

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河ぞひの門小雨ふる柳…第五章 十九のわれすでに

河ぞひの門小雨ふる柳はら二人の一人めす馬しろき歌は斯くよ血ぞゆらぎしと語る友に笑まひを見せしさびしき思とおもへばぞ垣をこえたる山ひつじとおもへばぞの花よわりなの庭下駄に水をあやぶむ花あやめ鋏にたらぬ力をわびぬ柳ぬれし今朝門すぐる文づかひ青貝ずりのその箱ほそき『いまさらにそは春せまき御胸なり』われ眼をとぢて御手にすがりぬその友はもだえのはてに歌を見ぬわれを召す神きぬ薄黒き

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そのなさけかけますな…第五章 十九のわれすでに

そのなさけかけますな君罪の子が狂ひのはてを見むと云ひたまへいさめますか道ときますかさとしますか宿世のよそに血を召しませなもろかりしはかなかりしと春のうた焚くにこの子の血ぞあまり若き夏やせの我やねたみの二十妻里居の夏に京を説く君こもり居に集の歌ぬくねたみ妻五月のやどの二人うつくしき舞姫人に侍る大堰の水のおばしまにわかきうれひの袂の長きくれなゐの扇に惜しき涙なりき嵯峨のみじか夜暁寒かりし

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朝を細き雨に小鼓おほ…第五章 十九のわれすでに

朝を細き雨に小鼓おほひゆくだんだら染の袖ながき君人にそひて今日京の子の歌をきく祇園清水春の山まろきくれなゐの襟にはさめる舞扇酔のすさびのあととめられな桃われの前髪ゆへるくみ紐やときいろなるがことたらぬかな浅黄地に扇ながしの都染九尺のしごき袖よりも長き四条橋おしろいあつき舞姫のぬかささやかに撲つ夕あられさしかざす小傘に紅き揚羽蝶小褄とる手に雪ちりかかる舞姫のかりね姿ようつくしき朝京くだる春の川舟

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紅梅に金糸のぬひの菊…第五章 十九のわれすでに

紅梅に金糸のぬひの菊づくし五枚かさねし襟なつかしき舞ぎぬの袂に声をおほひけりここのみ闇の春の廻廊まこと人を打たれむものかふりあげし袂このまま夜をなに舞はむ三たび四たびおなじしらべの京の四季おとどの君をつらしと思ひぬあてびとの御膝へおぞやおとしけり行幸源氏の巻絵の小櫛しろがねの舞の花櫛おもくしてかへす袂のままならぬかな四とせまへ鼓うつ手にそそがせし涙のぬしに逢はれむ我か

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おほつづみ抱へかねた…第五章 十九のわれすでに

おほつづみ抱へかねたるその頃よ美き衣きるをうれしと思ひしわれなれぬ千鳥なく夜の川かぜに鼓拍子をとりて行くまでいもうとの琴には惜しきおぼろ夜よ京の子こひし鼓のひと手よそほひし京の子すゑて絹のべて絵の具とく夜を春の雨ふるそのなさけ今日舞姫に強ひますか西の秀才が眉よやつれし春思いとせめてもゆるがままにもえしめよ斯くぞ覚ゆる暮れて行く春春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ

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夜の室に絵の具かぎよ…第五章 十九のわれすでに

夜の室に絵の具かぎよる懸想の子太古の神に春似たらずやそのはてにのこるは何と問ふな説くな友よ歌あれ終の十字架わかき子が胸の小琴の音を知るや旅ねの君よたまくらかさむ松かげにまたも相見る君とわれゑにしの神をにくしとおぼすなきのふをば千とせの前の世とも思ひ御手なほ肩に有りとも思ふ歌は君酔ひのすさびと墨ひかばさても消ゆべしさても消ぬべし神よとはにわかきまどひのあやまちとこの子の悔ゆる歌ききますな

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湯あがりを御風めすな…第五章 十九のわれすでに

湯あがりを御風めすなのわが上衣ゑんじむらさき人うつくしきさればとておもにうすぎぬかづきなれず春ゆるしませ中の小屏風しら綾に鬢の香しみし夜着の襟そむるに歌のなきにしもあらず夕ぐれの霧のまがひもさとしなりき消えしともしび神うつくしきもゆる口になにを含まむぬれといひし人のをゆびの血は涸れはてぬ人の子の恋をもとむる唇に毒ある蜜をわれぬらむ願ひここに三とせ人の名を見ずその詩よまず過すはよわきよわき心なり

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梅の渓の靄くれなゐの…第五章 十九のわれすでに

梅の渓の靄くれなゐの朝すがた山うつくしき我れうつくしきぬしや誰れねぶの木かげの釣床の網のめもるる水色のきぬ歌に声のうつくしかりし旅人の行手の村の桃しろかれな朝の雨につばさしめりし鶯を打たむの袖のさだすぎし君御手づからの水にうがひしそれよ朝かりし紅筆歌かきてやまむ春寒のふた日を京の山ごもり梅にふさはぬわが髪の乱れ歌筆を紅にかりたる尖凍てぬ西のみやこの春さむき朝

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春の宵をちひさく撞き…第五章 十九のわれすでに

春の宵をちひさく撞きて鐘を下りぬ二十七段堂のきざはし手をひたし水は昔にかはらずとさけぶ子の恋われあやぶみぬ病むわれにその子五つのをととなりつたなの笛をあはれと聞く夜とおもひてぬひし春着の袖うらにうらみの歌は書かさせますなかくて果つる我世さびしと泣くは誰ぞしろ桔梗さく伽藍のうらに人とわれおなじ十九のおもかげをうつせし水よ石津川の流れ卯の花を小傘にそへて褄とりて五月雨わぶる村はづれかな

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第六章 大御油ひひなの殿
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大御油ひひなの殿にま…第六章 大御油ひひなの殿

大御油ひひなの殿にまゐらするわが前髪に桃の花ちる夏花に多くの恋をゆるせしを神悔い泣くか枯野ふく風道を云はず後を思はず名を問はずここに恋ひ恋ふ君と我と見る魔に向ふつるぎの束をにぎるには細き五つの御指と吸ひぬ消えむものか歌よむ人の夢とそはそは夢ならむさて消えむものか恋と云はじそのまぼろしのあまき夢詩人もありき画だくみもありき君さけぶ道のひかりの遠を見ずやおなじ紅なる靄たちのぼる

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かたちの子春の子血の…第六章 大御油ひひなの殿

かたちの子春の子血の子ほのほの子いまを自在の翅なからずやふとそれより花に色なき春となりぬ疑ひの神まどはしの神うしや我れさむるさだめの夢を永久にさめなと祈る人の子におちぬわかき子が髪のしづくの草に凝りて蝶とうまれしここ春の国結願のゆふべの雨に花ぞ黒き五尺こちたき髪かるうなりぬ罪おほき男こらせと肌きよく黒髪ながくつくられし我れそとぬけてその靄おちて人を見ず夕の鐘のかたへさびしき

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春の小川うれしの夢に…第六章 大御油ひひなの殿

春の小川うれしの夢に人遠き朝を絵の具の紅き流さむもろき虹の七いろ恋ふるちさき者よめでたからずや魔神の翼酔に泣くをとめに見ませ春の神男の舌のなにかするどきその酒の濃きあぢはひを歌ふべき身なり君なり春のおもひ子花にそむきダビデの歌を誦せむにはあまりに若き我身とぞ思ふみかへりのそれはた更につらかりき闇におぼめく山吹垣根ゆく水に柳に春ぞなつかしき思はれ人に外ならぬ我れ

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その夜かの夜よわきた…第六章 大御油ひひなの殿

その夜かの夜よわきためいきせまりし夜琴にかぞふる三とせは長ききけな神恋はすみれの紫にゆふべの春の讃嘆のこゑ病みませるうなじに繊きかひな捲きて熱にかわける御口を吸はむ天の川そひねの床のとばりごしに星のわかれをすかし見るかな染めてよと君がみもとへおくりやりし扇かへらず風秋となりぬたまはりしうす紫の名なし草うすきゆかりを歎きつつ死なむうき身朝をはなれがたなの細柱たまはる梅の歌ことたらぬ

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さおぼさずや宵の火か…第六章 大御油ひひなの殿

さおぼさずや宵の火かげの長き歌かたみに詞あまり多かりきその歌を誦します声にさめし朝なでよの櫛の人はづかしき明日を思ひ明日の今おもひ宿の戸に倚る子やよわき梅暮れそめぬ金色の翅あるわらは躑躅くはへ小舟こぎくるうつくしき川月こよひいたみの眉はてらさざるに琵琶だく人の年とひますな恋をわれもろしと知りぬ別れかねおさへし袂風の吹きし時星の世のむくのしらぎぬかばかりに染めしは誰のとがとおぼすぞ

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わかき子のこがれより…第六章 大御油ひひなの殿

わかき子のこがれよりしは鑿のにほひ美妙の御相けふ身にしみぬ清し高しさはいへさびし白銀のしろきほのほと人の集見し(酔茗の君の詩集に)雁よそよわがさびしきは南なりのこりの恋のよしなき朝夕来し秋の何に似たるのわが命せましちひさし萩よ紫苑よ柳あをき堤にいつか立つや我れ水はさばかり流とからず幸おはせ羽やはらかき鳩とらへ罪ただしたる高き君たち打ちますにしろがねの鞭うつくしき愚かよ泣くか名にうとき羊

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誰に似むのおもひ問は…第六章 大御油ひひなの殿

誰に似むのおもひ問はれし春ひねもすやは肌もゆる血のけに泣きぬ庫裏の藤に春ゆく宵のものぐるひ御経のいのちうつつをかしき春の虹ねりのくけ紐たぐります羞ひ神の暁のかをりよ室の神に御肩かけつつひれふしぬゑんじなればの宵の一襲天の才ここににほひの美しき春をゆふべに集ゆるさずや消えて凝りて石と成らむの白桔梗秋の野生の趣味さて問ふな歌の手に葡萄をぬすむ子の髪のやはらかいかな虹のあさあけ

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そと秘めし春のゆふべ…第六章 大御油ひひなの殿

そと秘めし春のゆふべのちさき夢はぐれさせつる十三絃よ

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