みだれ髪

与謝野晶子 · 0/399

Snack Point

✦ 情熱を隠さない明治の女。与謝野晶子の燃えるような恋の歌。

✦ 1901年刊行。与謝野晶子23歳の第一歌集。「やは肌のあつき血汐にふれも見で」の大胆な恋歌。

✦ 明治の道徳観に風穴を開けた、スキャンダラスな一冊。

目次

底本情報

公開: 青空文庫
底本: 「みだれ髪」新潮文庫、新潮社
初出: 1901年
章構成: 章タイトルは原文準拠(章番号はSnackReadが独自に付与)
1/1

この書の体裁は悉く藤島武二先生の意匠に成れり表紙画みだれ髪の輪郭は恋愛の矢のハートを射たるにて矢の根より吹き出でたる花は詩を意味せるなり

1/399
🔒

1スナック

臙脂紫(1/10)
臙脂紫(1/10)1/10

夜の帳にささめき尽きし星の今を下界の人の鬢のほつれよ

2/399
臙脂紫(1/10)2/10

歌にきけな誰れ野の花に紅き否むおもむきあるかな春罪もつ子

3/399
臙脂紫(1/10)3/10

髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ

4/399
臙脂紫(1/10)4/10

血ぞもゆるかさむひと夜の夢のやど春を行く人神おとしめな

5/399
臙脂紫(1/10)5/10

椿それも梅もさなりき白かりきわが罪問はぬ色桃に見る

6/399
臙脂紫(1/10)6/10

その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな

7/399
臙脂紫(1/10)7/10

堂の鐘のひくきゆふべを前髪の桃のつぼみに経たまへ君

8/399
臙脂紫(1/10)8/10

紫にもみうらにほふみだれ篋をかくしわづらふ宵の春の神

9/399
臙脂紫(1/10)9/10

臙脂色は誰にかたらむ血のゆらぎ春のおもひのさかりの命

10/399
臙脂紫(1/10)10/10

紫の濃き虹説きしさかづきに映る春の子眉毛かぼそき

11/399
🔒

臙脂紫(1/10)

10スナック

臙脂紫(2/10)
臙脂紫(2/10)1/10

紺青を絹にわが泣く春の暮やまぶきがさね友歌ねびぬ

12/399
臙脂紫(2/10)2/10

まゐる酒に灯あかき宵を歌たまへ女はらから牡丹に名なき

13/399
臙脂紫(2/10)3/10

海棠にえうなくときし紅すてて夕雨みやる瞳よたゆき

14/399
臙脂紫(2/10)4/10

水にねし嵯峨の大堰のひと夜神絽蚊帳の裾の歌ひめたまへ

15/399
臙脂紫(2/10)5/10

春の国恋の御国のあさぼらけしるきは髪か梅花のあぶら

16/399
臙脂紫(2/10)6/10

今はゆかむさらばと云ひし夜の神の御裾さはりてわが髪ぬれぬ

17/399
臙脂紫(2/10)7/10

細きわがうなじにあまる御手のべてささへたまへな帰る夜の神

18/399
臙脂紫(2/10)8/10

清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき

19/399
臙脂紫(2/10)9/10

秋の神の御衣より曳く白き虹ものおもふ子の額に消えぬ

20/399
臙脂紫(2/10)10/10

経はにがし春のゆふべを奥の院の二十五菩薩歌うけたまへ

21/399
🔒

臙脂紫(2/10)

10スナック

臙脂紫(3/10)
臙脂紫(3/10)1/10

山ごもりかくてあれなのみをしへよ紅つくるころ桃の花さかむ

22/399
臙脂紫(3/10)2/10

とき髪に室むつまじの百合のかをり消えをあやぶむ夜の淡紅色よ

23/399
臙脂紫(3/10)3/10

雲ぞ青き来し夏姫が朝の髪うつくしいかな水に流るる

24/399
臙脂紫(3/10)4/10

夜の神の朝のり帰る羊とらへちさき枕のしたにかくさむ

25/399
臙脂紫(3/10)5/10

みぎはくる牛かひ男歌あれな秋のみづうみあまりさびしき

26/399
臙脂紫(3/10)6/10

やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君

27/399
臙脂紫(3/10)7/10

許したまへあらずばこその今のわが身うすむらさきの酒うつくしき

28/399
臙脂紫(3/10)8/10

わすれがたきとのみに趣味をみとめませ説かじ紫その秋の花

29/399
臙脂紫(3/10)9/10

人かへさず暮れむの春の宵ごこち小琴にもたす乱れ乱れ髪

30/399
臙脂紫(3/10)10/10

たまくらに鬢のひとすぢきれし音を小琴と聞きし春の夜の夢

31/399
🔒

臙脂紫(3/10)

10スナック

臙脂紫(4/10)
臙脂紫(4/10)1/10

春雨にぬれて君こし草の門よおもはれ顔の海棠の夕

32/399
臙脂紫(4/10)2/10

小草いひぬ『酔へる涙の色にさかむそれまで斯くて覚めざれな少女』

33/399
臙脂紫(4/10)3/10

牧場いでて南にはしる水ながしさても緑の野にふさふ君

34/399
臙脂紫(4/10)4/10

春よ老いな藤によりたる夜の舞殿ゐならぶ子らよ束の間老いな

35/399
臙脂紫(4/10)5/10

雨みゆるうき葉しら蓮絵師の君に傘まゐらする三尺の船

36/399
臙脂紫(4/10)6/10

御相いとどしたしみやすきなつかしき若葉木立の中の盧遮那仏

37/399
臙脂紫(4/10)7/10

さて責むな高きにのぼり君みずや紅の涙の永劫のあと

38/399
臙脂紫(4/10)8/10

春雨にゆふべの宮をまよひ出でし小羊君をのろはしの我れ

39/399
臙脂紫(4/10)9/10

ゆあみする泉の底の小百合花二十の夏をうつくしと見ぬ

40/399
臙脂紫(4/10)10/10

みだれごこちまどひごこちぞ頻なる百合ふむ神に乳おほひあへず

41/399
🔒

臙脂紫(4/10)

10スナック

臙脂紫(5/10)
臙脂紫(5/10)1/10

くれなゐの薔薇のかさねの唇に霊の香のなき歌のせますな

42/399
臙脂紫(5/10)2/10

旅のやど水に端居の僧の君をいみじと泣きぬ夏の夜の月

43/399
臙脂紫(5/10)3/10

春の夜の闇の中くるあまき風しばしかの子が髪に吹かざれ

44/399
臙脂紫(5/10)4/10

水に飢ゑて森をさまよふ小羊のそのまなざしに似たらずや君

45/399
臙脂紫(5/10)5/10

誰ぞ夕ひがし生駒の山の上のまよひの雲にこの子うらなへ

46/399
臙脂紫(5/10)6/10

悔いますなおさへし袖に折れし剣つひの理想の花に刺あらじ

47/399
臙脂紫(5/10)7/10

額ごしに暁の月みる加茂川の浅水色のみだれ藻染よ

48/399
臙脂紫(5/10)8/10

御袖くくりかへりますかの薄闇の欄干夏の加茂川の神

49/399
臙脂紫(5/10)9/10

なほ許せ御国遠くば夜の御神紅盃船に送りまゐらせむ

50/399
臙脂紫(5/10)10/10

狂ひの子われに焔の翅かろき百三十里あわただしの旅

51/399
🔒

臙脂紫(5/10)

10スナック

臙脂紫(6/10)
臙脂紫(6/10)1/10

今ここにかへりみすればわがなさけ闇をおそれぬめしひに似たり

52/399
臙脂紫(6/10)2/10

うつくしき命を惜しと神のいひぬ願ひのそれは果してし今

53/399
臙脂紫(6/10)3/10

わかき小指胡紛をとくにまどひあり夕ぐれ寒き木蓮の花

54/399
臙脂紫(6/10)4/10

ゆるされし朝よそほひのしばらくを君に歌へな山の鶯

55/399
臙脂紫(6/10)5/10

ふしませとその間さがりし春の宵衣桁にかけし御袖かづきぬ

56/399
臙脂紫(6/10)6/10

みだれ髪を京の島田にかへし朝ふしてゐませの君ゆりおこす

57/399
臙脂紫(6/10)7/10

しのび足に君を追ひゆく薄月夜右のたもとの文がらおもき

58/399
臙脂紫(6/10)8/10

紫に小草が上へ影おちぬ野の春かぜに髪けづる朝

59/399
臙脂紫(6/10)9/10

絵日傘をかなたの岸の草になげわたる小川よ春の水ぬるき

60/399
臙脂紫(6/10)10/10

しら壁へ歌ひとつ染めむねがひにて笠はあらざりき二百里の旅

61/399
🔒

臙脂紫(6/10)

10スナック

臙脂紫(7/10)
臙脂紫(7/10)1/10

嵯峨の君を歌に仮せなの朝のすさびすねし鏡のわが夏姿

62/399
臙脂紫(7/10)2/10

ふさひ知らぬ新婦かざすしら萩に今宵の神のそと片笑みし

63/399
臙脂紫(7/10)3/10

ひと枝の野の梅をらば足りぬべしこれかりそめのかりそめの別れ

64/399
臙脂紫(7/10)4/10

鶯は君が夢よともどきながら緑のとばりそとかかげ見る

65/399
臙脂紫(7/10)5/10

紫の紅の滴り花におちて成りしかひなの夢うたがふな

66/399
臙脂紫(7/10)6/10

ほととぎす嵯峨へは一里京へ三里水の清瀧夜の明けやすき

67/399
臙脂紫(7/10)7/10

紫の理想の雲はちぎれ/\仰ぐわが空それはた消えぬ

68/399
臙脂紫(7/10)8/10

乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き

69/399
臙脂紫(7/10)9/10

神の背にひろきながめをねがはずや今かたかたの袖こむらさき

70/399
臙脂紫(7/10)10/10

とや心朝の小琴の四つの緒のひとつを永久に神きりすてし

71/399
🔒

臙脂紫(7/10)

10スナック

臙脂紫(8/10)
臙脂紫(8/10)1/10

ひく袖に片笑もらす春ぞわかき朝のうしほの恋のたはぶれ

72/399
臙脂紫(8/10)2/10

くれの春隣すむ画師うつくしき今朝山吹に声わかかりし

73/399
臙脂紫(8/10)3/10

郷人にとなり邸のしら藤の花はとのみに問ひもかねたる

74/399
臙脂紫(8/10)4/10

人にそひて樒ささぐるこもり妻母なる君を御墓に泣きぬ

75/399
臙脂紫(8/10)5/10

なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな

76/399
臙脂紫(8/10)6/10

おばしまにおもひはてなき身をもたせ小萩をわたる秋の風見る

77/399
臙脂紫(8/10)7/10

ゆあみして泉を出でしわがはだにふるるはつらき人の世のきぬ

78/399
臙脂紫(8/10)8/10

売りし琴にむつびの曲をのせしひびき逢魔がどきの黒百合折れぬ

79/399
臙脂紫(8/10)9/10

うすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる夜風の青き

80/399
臙脂紫(8/10)10/10

恋ならぬねざめたたずむ野のひろさ名なし小川のうつくしき夏

81/399
🔒

臙脂紫(8/10)

10スナック

臙脂紫(9/10)
臙脂紫(9/10)1/10

このおもひ何とならむのまどひもちしその昨日すらさびしかりし我れ

82/399
臙脂紫(9/10)2/10

おりたちてうつつなき身の牡丹見ぬそぞろや夜を蝶のねにこし

83/399
臙脂紫(9/10)3/10

その涙のごふえにしは持たざりきさびしの水に見し二十日月

84/399
臙脂紫(9/10)4/10

水十里ゆふべの船をあだにやりて柳による子ぬかうつくしき(をとめ)

85/399
臙脂紫(9/10)5/10

旅の身の大河ひとつまどはむや徐かに日記の里の名けしぬ(旅びと)

86/399
臙脂紫(9/10)6/10

小傘とりて朝の水くみ我とこそ穂麦あをあを小雨ふる里

87/399
臙脂紫(9/10)7/10

おとに立ちて小川をのぞく乳母が小窓小雨のなかに山吹のちる

88/399
臙脂紫(9/10)8/10

恋か血か牡丹に尽きし春のおもひとのゐの宵のひとり歌なき

89/399
臙脂紫(9/10)9/10

長き歌を牡丹にあれの宵の殿妻となる身の我れぬけ出でし

90/399
臙脂紫(9/10)10/10

春三月柱おかぬ琴に音たてぬふれしそぞろの宵の乱れ髪

91/399
🔒

臙脂紫(9/10)

10スナック

臙脂紫(10/10)
臙脂紫(10/10)1/8

いづこまで君は帰るとゆふべ野にわが袖ひきぬ翅ある童

92/399
臙脂紫(10/10)2/8

ゆふぐれの戸に倚り君がうたふ歌『うき里去りて往きて帰らじ』

93/399
臙脂紫(10/10)3/8

さびしさに百二十里をそぞろ来ぬと云ふ人あらばあらば如何ならむ

94/399
臙脂紫(10/10)4/8

君が歌に袖かみし子を誰と知る浪速の宿は秋寒かりき

95/399
臙脂紫(10/10)5/8

その日より魂にわかれし我れむくろ美しと見ば人にとぶらへ

96/399
臙脂紫(10/10)6/8

今の我に歌のありやを問ひますな柱なき繊絃これ二十五絃

97/399
臙脂紫(10/10)7/8

神のさだめ命のひびき終の我世琴に斧うつ音ききたまへ

98/399
臙脂紫(10/10)8/8

人ふたり無才の二字を歌に笑みぬ恋二万年ながき短き

99/399
🔒

臙脂紫(10/10)

8スナック

蓮の花船(1/8)
蓮の花船(1/8)1/10

漕ぎかへる夕船おそき僧の君紅蓮や多きしら蓮や多き

100/399
蓮の花船(1/8)2/10

あづまやに水のおときく藤の夕はづしますなのひくき枕よ

101/399
蓮の花船(1/8)3/10

御袖ならず御髪のたけときこえたり七尺いづれしら藤の花

102/399
蓮の花船(1/8)4/10

夏花のすがたは細きくれなゐに真昼いきむの恋よこの子よ

103/399
蓮の花船(1/8)5/10

肩おちて経にゆらぎのそぞろ髪をとめ有心者春の雲こき

104/399
蓮の花船(1/8)6/10

とき髪を若枝にからむ風の西よ二尺に足らぬうつくしき虹

105/399
蓮の花船(1/8)7/10

うながされて汀の闇に車おりぬほの紫の反橋の藤

106/399
蓮の花船(1/8)8/10

われとなく梭の手とめし門の唄姉がゑまひの底はづかしき

107/399
蓮の花船(1/8)9/10

ゆあがりのみじまひなりて姿見に笑みし昨日の無きにしもあらず

108/399
蓮の花船(1/8)10/10

人まへを袂すべりしきぬでまり知らずと云ひてかかへてにげぬ

109/399
🔒

蓮の花船(1/8)

10スナック

蓮の花船(2/8)
蓮の花船(2/8)1/10

ひとつ篋にひひなをさめて蓋とぢて何となき息桃にはばかる

110/399
蓮の花船(2/8)2/10

ほの見しは奈良のはづれの若葉宿うすまゆずみのなつかしかりし

111/399
蓮の花船(2/8)3/10

紅に名の知らぬ花さく野の小道いそぎたまふな小傘の一人

112/399
蓮の花船(2/8)4/10

くだり船昨夜月かげに歌そめし御堂の壁も見えず見えずなりぬ

113/399
蓮の花船(2/8)5/10

師の君の目を病みませる庵の庭へうつしまゐらす白菊の花

114/399
蓮の花船(2/8)6/10

文字ほそく君が歌ひとつ染めつけぬ玉虫ひめし小筥の蓋に

115/399
蓮の花船(2/8)7/10

ゆふぐれを籠へ鳥よぶいもうとの爪先ぬらす海棠の雨

116/399
蓮の花船(2/8)8/10

ゆく春をえらびよしある絹袷衣ねびのよそめを一人に問ひぬ

117/399
蓮の花船(2/8)9/10

ぬしいはずとれなの筆の水の夕そよ墨足らぬ撫子がさね

118/399
蓮の花船(2/8)10/10

母よびてあかつき問ひし君といはれそむくる片頬柳にふれぬ

119/399
🔒

蓮の花船(2/8)

10スナック

蓮の花船(3/8)
蓮の花船(3/8)1/10

のろひ歌かきかさねたる反古とりて黒き胡蝶をおさへぬるかな

120/399
蓮の花船(3/8)2/10

額しろき聖よ見ずや夕ぐれを海棠に立つ春夢見姿

121/399
蓮の花船(3/8)3/10

笛の音に法華経うつす手をとどめひそめし眉よまだうらわかき

122/399
蓮の花船(3/8)4/10

白檀のけむりこなたへ絶えずあふるにくき扇をうばひぬるかな

123/399
蓮の花船(3/8)5/10

母なるが枕経よむかたはらのちひさき足をうつくしと見き

124/399
蓮の花船(3/8)6/10

わが歌に瞳のいろをうるませしその君去りて十日たちにけり

125/399
蓮の花船(3/8)7/10

かたみぞと風なつかしむ小扇のかなめあやふくなりにけるかな

126/399
蓮の花船(3/8)8/10

春の川のりあひ舟のわかき子が昨夜の泊の唄ねたましき

127/399
蓮の花船(3/8)9/10

泣かで急げやは手にはばき解くえにしえにし持つ子の夕を待たむ

128/399
蓮の花船(3/8)10/10

燕なく朝をはばきの紐ぞゆるき柳かすむやその家のめぐり

129/399
🔒

蓮の花船(3/8)

10スナック

蓮の花船(4/8)
蓮の花船(4/8)1/10

小川われ村のはづれの柳かげに消えぬ姿を泣く子朝見し

130/399
蓮の花船(4/8)2/10

鶯に朝寒からぬ京の山おち椿ふむ人むつまじき

131/399
蓮の花船(4/8)3/10

道たま/\蓮月が庵のあとに出でぬ梅に相行く西の京の山

132/399
蓮の花船(4/8)4/10

君が前に李青蓮説くこの子ならずよき墨なきを梅にかこつな

133/399
蓮の花船(4/8)5/10

あるときはねたしと見たる友の髪に香の煙のはひかかるかな

134/399
蓮の花船(4/8)6/10

わが春の二十姿と打ぞ見ぬ底くれなゐのうす色牡丹

135/399
蓮の花船(4/8)7/10

春はただ盃にこそ注ぐべけれ智慧あり顔の木蓮や花

136/399
蓮の花船(4/8)8/10

さはいへど君が昨日の恋がたりひだり枕の切なき夜半よ

137/399
蓮の花船(4/8)9/10

人そぞろ宵の羽織の肩うらへかきしは歌か芙蓉といふ文字

138/399
蓮の花船(4/8)10/10

琴の上に梅の実おつる宿の昼よちかき清水に歌ずする君

139/399
🔒

蓮の花船(4/8)

10スナック

蓮の花船(5/8)
蓮の花船(5/8)1/10

うたたねの君がかたへの旅づつみ恋の詩集の古きあたらしき

140/399
蓮の花船(5/8)2/10

戸に倚りて菖蒲売る子がひたひ髪にかかる薄靄にほひある朝

141/399
蓮の花船(5/8)3/10

五月雨もむかしに遠き山の庵通夜する人に卯の花いけぬ

142/399
蓮の花船(5/8)4/10

四十八寺そのひと寺の鐘なりぬ今し江の北雨雲ひくき

143/399
蓮の花船(5/8)5/10

人の子にかせしは罪かわがかひな白きは神になどゆづるべき

144/399
蓮の花船(5/8)6/10

ふりかへり許したまへの袖だたみ闇くる風に春ときめきぬ

145/399
蓮の花船(5/8)7/10

夕ふるはなさけの雨よ旅の君ちか道とはで宿とりたまへ

146/399
蓮の花船(5/8)8/10

巌をはなれ谿をくだりて躑躅をりて都の絵師と水に別れぬ

147/399
蓮の花船(5/8)9/10

春の日を恋に誰れ倚るしら壁ぞ憂きは旅の子藤たそがるる

148/399
蓮の花船(5/8)10/10

油のあと島田のかたと今日知りし壁に李の花ちりかかる

149/399
🔒

蓮の花船(5/8)

10スナック

蓮の花船(6/8)
蓮の花船(6/8)1/10

うなじ手にひくきささやき藤の朝をよしなやこの子行くは旅の君

150/399
蓮の花船(6/8)2/10

まどひなくて経ずする我と見たまふか下品の仏上品の仏

151/399
蓮の花船(6/8)3/10

ながしつる四つの笹舟紅梅を載せしがことにおくれて往きぬ

152/399
蓮の花船(6/8)4/10

奥の室のうらめづらしき初声に血の気のぼりし面まだ若き

153/399
蓮の花船(6/8)5/10

人の歌をくちずさみつつ夕よる柱つめたき秋の雨かな

154/399
蓮の花船(6/8)6/10

小百合さく小草がなかに君まてば野末にほひて虹あらはれぬ

155/399
蓮の花船(6/8)7/10

かしこしといなみにいひて我とこそその山坂を御手に倚らざりし

156/399
蓮の花船(6/8)8/10

鳥辺野は御親の御墓あるところ清水坂に歌はなかりき

157/399
蓮の花船(6/8)9/10

御親まつる墓のしら梅中に白く熊笹小笹たそがれそめぬ

158/399
蓮の花船(6/8)10/10

男きよし載するに僧のうらわかき月にくらしの蓮の花船

159/399
🔒

蓮の花船(6/8)

10スナック

蓮の花船(7/8)
蓮の花船(7/8)1/10

経にわかき僧のみこゑの片明り月の蓮船兄こぎかへる

160/399
蓮の花船(7/8)2/10

浮葉きるとぬれし袂の紅のしづく蓮にそそぎてなさけ教へむ

161/399
蓮の花船(7/8)3/10

こころみにわかき唇ふれて見れば冷かなるよしら蓮の露

162/399
蓮の花船(7/8)4/10

明くる夜の河はばひろき嵯峨の欄きぬ水色の二人の夏よ

163/399
蓮の花船(7/8)5/10

藻の花のしろきを摘むと山みづに文がら濡ぢぬうすものの袖

164/399
蓮の花船(7/8)6/10

牛の子を木かげに立たせ絵にうつす君がゆかたに柿の花ちる

165/399
蓮の花船(7/8)7/10

誰が筆に染めし扇ぞ去年までは白きをめでし君にやはあらぬ

166/399
蓮の花船(7/8)8/10

おもざしの似たるにまたもまどひけりたはぶれますよ恋の神々

167/399
蓮の花船(7/8)9/10

五月雨に築土くづれし鳥羽殿のいぬゐの池におもだかさきぬ

168/399
蓮の花船(7/8)10/10

つばくらの羽にしたたる春雨をうけてなでむかわが朝寝髪

169/399
🔒

蓮の花船(7/8)

10スナック

蓮の花船(8/8)
蓮の花船(8/8)1/6

しら菊を折りてゑまひし朝すがた垣間みしつと人の書きこし

170/399
蓮の花船(8/8)2/6

八つ口をむらさき緒もて我れとめじひかばあたへむ三尺の袖

171/399
蓮の花船(8/8)3/6

春かぜに桜花ちる層塔のゆふべを鳩の羽に歌そめむ

172/399
蓮の花船(8/8)4/6

憎からぬねたみもつ子とききし子の垣の山吹歌うて過ぎぬ

173/399
蓮の花船(8/8)5/6

おばしまのその片袖ぞおもかりし鞍馬を西へ流れにし霞

174/399
蓮の花船(8/8)6/6

ひとたびは神より更ににほひ高き朝をつつみし練の下襲

175/399
🔒

蓮の花船(8/8)

6スナック

白百合(1/4)
白百合(1/4)1/10

月の夜の蓮のおばしま君うつくしうら葉の御歌わすれはせずよ

176/399
白百合(1/4)2/10

たけの髪をとめ二人に月うすき今宵しら蓮色まどはずや

177/399
白百合(1/4)3/10

荷葉なかば誰にゆるすの上の御句ぞ御袖片取るわかき師の君

178/399
白百合(1/4)4/10

おもひおもふ今のこころに分ち分かず君やしら萩われやしろ百合

179/399
白百合(1/4)5/10

いづれ君ふるさと遠き人の世ぞと御手はなちしは昨日の夕

180/399
白百合(1/4)6/10

三たりをば世にうらぶれしはらからとわれ先づ云ひぬ西の京の宿

181/399
白百合(1/4)7/10

今宵まくら神にゆづらぬやは手なりたがはせまさじ白百合の夢

182/399
白百合(1/4)8/10

夢にせめてせめてと思ひその神に小百合の露の歌ささやきぬ

183/399
白百合(1/4)9/10

次のまのあま戸そとくるわれをよびて秋の夜いかに長きみぢかき

184/399
白百合(1/4)10/10

友のあしのつめたかりきと旅の朝わかきわが師に心なくいひぬ

185/399
🔒

白百合(1/4)

10スナック

白百合(2/4)
白百合(2/4)1/10

ひとまおきてをりをりもれし君がいきその夜しら梅だくと夢みし

186/399
白百合(2/4)2/10

いはず聴かずただうなづきて別れけりその日は六日二人と一人

187/399
白百合(2/4)3/10

もろ羽かはし掩ひしそれも甲斐なかりきうつくしの友西の京の秋

188/399
白百合(2/4)4/10

星となりて逢はむそれまで思ひ出でな一つふすまに聞きし秋の声

189/399
白百合(2/4)5/10

人の世に才秀でたるわが友の名の末かなし今日秋くれぬ

190/399
白百合(2/4)6/10

星の子のあまりによわし袂あげて魔にも鬼にも勝たむと云へな

191/399
白百合(2/4)7/10

百合の花わざと魔の手に折らせおきて拾ひてだかむ神のこころか

192/399
白百合(2/4)8/10

しろ百合はそれその人の高きおもひおもわは艶ふ紅芙蓉とこそ

193/399
白百合(2/4)9/10

さはいへどそのひと時よまばゆかりき夏の野しめし白百合の花

194/399
白百合(2/4)10/10

友は二十ふたつこしたる我身なりふさはずあらじ恋と伝へむ

195/399
🔒

白百合(2/4)

10スナック

白百合(3/4)
白百合(3/4)1/10

その血潮ふたりは吐かぬちぎりなりき春を山蓼たづねますな君

196/399
白百合(3/4)2/10

秋を三人椎の実なげし鯉やいづこ池の朝かぜ手と手つめたき

197/399
白百合(3/4)3/10

かの空よ若狭は北よわれ載せて行く雲なきか西の京の山

198/399
白百合(3/4)4/10

ひと花はみづから渓にもとめきませ若狭の雪に堪へむ紅

199/399
白百合(3/4)5/10

『筆のあとに山居のさまを知りたまへ』人への人の文さりげなき

200/399
白百合(3/4)6/10

京はもののつらきところと書きさして見おろしませる加茂の河しろき

201/399
白百合(3/4)7/10

恨みまつる湯におりしまの一人居を歌なかりきの君へだてあり

202/399
白百合(3/4)8/10

秋の衾あしたわびし身うらめしきつめたきためし春の京に得ぬ

203/399
白百合(3/4)9/10

わすれては谿へおりますうしろ影ほそき御肩に春の日よわき

204/399
白百合(3/4)10/10

京の鐘この日このとき我れあらずこの日このとき人と人を泣きぬ

205/399
🔒

白百合(3/4)

10スナック

白百合(4/4)
白百合(4/4)1/6

琵琶の海山ごえ行かむいざと云ひし秋よ三人よ人そぞろなりし

206/399
白百合(4/4)2/6

京の水の深み見おろし秋を人の裂きし小指の血のあと寒き

207/399
白百合(4/4)3/6

山蓼のそれよりふかきくれなゐは梅よはばかれ神にとがおはむ

208/399
白百合(4/4)4/6

魔のまへに理想くだきしよわき子と友のゆふべをゆびさしますな

209/399
白百合(4/4)5/6

魔のわざを神のさだめと眼を閉ぢし友の片手の花あやぶみぬ

210/399
白百合(4/4)6/6

歌をかぞへその子この子にならふなのまだ寸ならぬ白百合の芽よ

211/399
🔒

白百合(4/4)

6スナック

はたち妻(1/9)
はたち妻(1/9)1/10

露にさめて瞳もたぐる野の色よ夢のただちの紫の虹

212/399
はたち妻(1/9)2/10

やれ壁にチチアンが名はつらかりき湧く酒がめを夕に秘めな

213/399
はたち妻(1/9)3/10

何となきただ一ひらの雲に見ぬみちびきさとし聖歌のにほひ

214/399
はたち妻(1/9)4/10

神にそむきふたたびここに君と見ぬ別れの別れさいへ乱れじ

215/399
はたち妻(1/9)5/10

淵の水になげし聖書を又もひろひ空仰ぎ泣くわれまどひの子

216/399
はたち妻(1/9)6/10

聖書だく子人の御親の墓に伏して弥勒の名をば夕に喚びぬ

217/399
はたち妻(1/9)7/10

神ここに力をわびぬとき紅のにほひ興がるめしひの少女

218/399
はたち妻(1/9)8/10

痩せにたれかひなもる血ぞ猶わかき罪を泣く子と神よ見ますな

219/399
はたち妻(1/9)9/10

おもはずや夢ねがはずや若人よもゆるくちびる君に映らずや

220/399
はたち妻(1/9)10/10

君さらば巫山の春のひと夜妻またの世までは忘れゐたまへ

221/399
🔒

はたち妻(1/9)

10スナック

はたち妻(2/9)
はたち妻(2/9)1/10

あまきにがき味うたがひぬ我を見てわかきひじりの流しにし涙

222/399
はたち妻(2/9)2/10

歌に名は相問はざりきさいへ一夜ゑにしのほかの一夜とおぼすな

223/399
はたち妻(2/9)3/10

水の香をきぬにおほひぬわかき神草には見えぬ風のゆるぎよ

224/399
はたち妻(2/9)4/10

ゆく水のざれ言きかす神の笑まひ御歯あざやかに花の夜あけぬ

225/399
はたち妻(2/9)5/10

百合にやる天の小蝶のみづいろの翅にしつけの糸をとる神

226/399
はたち妻(2/9)6/10

ひとつ血の胸くれなゐの春のいのちひれふすかをり神もとめよる

227/399
はたち妻(2/9)7/10

わがいだくおもかげ君はそこに見む春のゆふべの黄雲のちぎれ

228/399
はたち妻(2/9)8/10

むねの清水あふれてつひに濁りけり君も罪の子我も罪の子

229/399
はたち妻(2/9)9/10

うらわかき僧よびさます春の窓ふり袖ふれて経くづれきぬ

230/399
はたち妻(2/9)10/10

今日を知らず智慧の小石は問はでありき星のおきてと別れにし朝

231/399
🔒

はたち妻(2/9)

10スナック

はたち妻(3/9)
はたち妻(3/9)1/10

春にがき貝多羅葉の名をききて堂の夕日に友の世泣きぬ

232/399
はたち妻(3/9)2/10

ふた月を歌にただある三本樹加茂川千鳥恋はなき子ぞ

233/399
はたち妻(3/9)3/10

わかき子が乳の香まじる春雨に上羽を染めむ白き鳩われ

234/399
はたち妻(3/9)4/10

夕ぐれを花にかくるる小狐のにこ毛にひびく北嵯峨の鐘

235/399
はたち妻(3/9)5/10

見しはそれ緑の夢のほそき夢ゆるせ旅人かたり草なき

236/399
はたち妻(3/9)6/10

胸と胸とおもひことなる松のかぜ友の頬を吹きぬ我頬を吹きぬ

237/399
はたち妻(3/9)7/10

野茨をりて髪にもかざし手にもとり永き日野辺に君まちわびぬ

238/399
はたち妻(3/9)8/10

春を説くなその朝かぜにほころびし袂だく子に君こころなき

239/399
はたち妻(3/9)9/10

春をおなじ急瀬さばしる若鮎の釣緒の細緒くれなゐならぬ

240/399
はたち妻(3/9)10/10

みなぞこにけぶる黒髪ぬしや誰れ緋鯉のせなに梅の花ちる

241/399
🔒

はたち妻(3/9)

10スナック

はたち妻(4/9)
はたち妻(4/9)1/10

秋を人のよりし柱にとがめあり梅にことかるきぬぎぬの歌

242/399
はたち妻(4/9)2/10

京の山のこぞめしら梅人ふたりおなじ夢みし春と知りたまへ

243/399
はたち妻(4/9)3/10

なつかしの湯の香梅が香山の宿の板戸によりて人まちし闇

244/399
はたち妻(4/9)4/10

詞にも歌にもなさじわがおもひその日そのとき胸より胸に

245/399
はたち妻(4/9)5/10

歌にねて昨夜梶の葉の作者見ぬうつくしかりき黒髪の色

246/399
はたち妻(4/9)6/10

下京や紅屋が門をくぐりたる男かはゆし春の夜の月

247/399
はたち妻(4/9)7/10

枝折戸あり紅梅さけり水ゆけり立つ子われより笑みうつくしき

248/399
はたち妻(4/9)8/10

しら梅は袖に湯の香は下のきぬにかりそめながら君さらばさらば

249/399
はたち妻(4/9)9/10

二十とせの我世の幸はうすかりきせめて今見る夢やすかれな

250/399
はたち妻(4/9)10/10

二十とせのうすきいのちのひびきありと浪華の夏の歌に泣きし君

251/399
🔒

はたち妻(4/9)

10スナック

はたち妻(5/9)
はたち妻(5/9)1/10

かづくきぬにその間の床の梅ぞにくき昔がたりを夢に寄する君

252/399
はたち妻(5/9)2/10

それ終に夢にはあらぬそら語り中のともしびいつ君きえし

253/399
はたち妻(5/9)3/10

君ゆくとその夕ぐれに二人して柱にそめし白萩の歌

254/399
はたち妻(5/9)4/10

なさけあせし文みて病みておとろへてかくても人を猶恋ひわたる

255/399
はたち妻(5/9)5/10

夜の神のあともとめよるしら綾の鬢の香朝の春雨の宿

256/399
はたち妻(5/9)6/10

その子ここに夕片笑みの二十びと虹のはしらを説くに隠れぬ

257/399
はたち妻(5/9)7/10

このあした君があげたるみどり子のやがて得む恋うつくしかれな

258/399
はたち妻(5/9)8/10

恋の神にむくいまつりし今日の歌ゑにしの神はいつ受けまさむ

259/399
はたち妻(5/9)9/10

かくてなほあくがれますか真善美わが手の花はくれなゐよ君

260/399
はたち妻(5/9)10/10

くろ髪の千すぢの髪のみだれ髪かつおもひみだれおもひみだるる

261/399
🔒

はたち妻(5/9)

10スナック

はたち妻(6/9)
はたち妻(6/9)1/10

そよ理想おもひにうすき身なればか朝の露草人ねたかりし

262/399
はたち妻(6/9)2/10

とどめあへぬそぞろ心は人しらむくづれし牡丹さぎぬに紅き

263/399
はたち妻(6/9)3/10

『あらざりき』そは後の人のつぶやきし我には永久のうつくしの夢

264/399
はたち妻(6/9)4/10

行く春の一絃一柱におもひありさいへ火かげのわが髪ながき

265/399
はたち妻(6/9)5/10

のらす神あふぎ見するに瞼おもきわが世の闇の夢の小夜中

266/399
はたち妻(6/9)6/10

そのわかき羊は誰に似たるぞの瞳の御色野は夕なりし

267/399
はたち妻(6/9)7/10

あえかなる白きうすものまなじりの火かげの栄の詛はしき君

268/399
はたち妻(6/9)8/10

紅梅にそぞろゆきたる京の山叔母の尼すむ寺は訪はざりし

269/399
はたち妻(6/9)9/10

くさぐさの色ある花によそはれし棺のなかの友うつくしき

270/399
はたち妻(6/9)10/10

五つとせは夢にあらずよみそなはせ春に色なき草ながき里

271/399
🔒

はたち妻(6/9)

10スナック

はたち妻(7/9)
はたち妻(7/9)1/10

すげ笠にあるべき歌と強ひゆきぬ若葉よ薫れ生駒葛城

272/399
はたち妻(7/9)2/10

裾たるる紫ひくき根なし雲牡丹が夢の真昼しづけき

273/399
はたち妻(7/9)3/10

紫のわが世の恋のあさぼらけ諸手のかをり追風ながき

274/399
はたち妻(7/9)4/10

このおもひ真昼の夢と誰か云ふ酒のかをりのなつかしき春

275/399
はたち妻(7/9)5/10

みどりなるは学びの宮とさす神にいらへまつらで摘む夕すみれ

276/399
はたち妻(7/9)6/10

そら鳴りの夜ごとのくせぞ狂ほしき汝よ小琴よ片袖かさむ(琴に)

277/399
はたち妻(7/9)7/10

ぬしえらばず胸にふれむの行く春の小琴とおぼせ眉やはき君(琴のいらへて)

278/399
はたち妻(7/9)8/10

去年ゆきし姉の名よびて夕ぐれの戸に立つ人をあはれと思ひぬ

279/399
はたち妻(7/9)9/10

十九のわれすでに菫を白く見し水はやつれぬはかなかるべき

280/399
はたち妻(7/9)10/10

ひと年をこの子のすがた絹に成らず画の筆すてて詩にかへし君

281/399
🔒

はたち妻(7/9)

10スナック

はたち妻(8/9)
はたち妻(8/9)1/10

白きちりぬ紅きくづれぬ床の牡丹五山の僧の口おそろしき

282/399
はたち妻(8/9)2/10

今日の身に我をさそひし中の姉小町のはてを祈れと去にぬ

283/399
はたち妻(8/9)3/10

秋もろし春みじかしをまどひなく説く子ありなば我れ道きかむ

284/399
はたち妻(8/9)4/10

さそひ入れてさらばと我手はらひます御衣のにほひ闇やはらかき

285/399
はたち妻(8/9)5/10

病みてこもる山の御堂に春くれぬ今日文ながき絵筆とる君

286/399
はたち妻(8/9)6/10

河ぞひの門小雨ふる柳はら二人の一人めす馬しろき

287/399
はたち妻(8/9)7/10

歌は斯くよ血ぞゆらぎしと語る友に笑まひを見せしさびしき思

288/399
はたち妻(8/9)8/10

とおもへばぞ垣をこえたる山ひつじとおもへばぞの花よわりなの

289/399
はたち妻(8/9)9/10

庭下駄に水をあやぶむ花あやめ鋏にたらぬ力をわびぬ

290/399
はたち妻(8/9)10/10

柳ぬれし今朝門すぐる文づかひ青貝ずりのその箱ほそき

291/399
🔒

はたち妻(8/9)

10スナック

はたち妻(9/9)
はたち妻(9/9)1/7

『いまさらにそは春せまき御胸なり』われ眼をとぢて御手にすがりぬ

292/399
はたち妻(9/9)2/7

その友はもだえのはてに歌を見ぬわれを召す神きぬ薄黒き

293/399
はたち妻(9/9)3/7

そのなさけかけますな君罪の子が狂ひのはてを見むと云ひたまへ

294/399
はたち妻(9/9)4/7

いさめますか道ときますかさとしますか宿世のよそに血を召しませな

295/399
はたち妻(9/9)5/7

もろかりしはかなかりしと春のうた焚くにこの子の血ぞあまり若き

296/399
はたち妻(9/9)6/7

夏やせの我やねたみの二十妻里居の夏に京を説く君

297/399
はたち妻(9/9)7/7

こもり居に集の歌ぬくねたみ妻五月のやどの二人うつくしき

298/399
🔒

はたち妻(9/9)

7スナック

舞姫(1/2)
舞姫(1/2)1/10

人に侍る大堰の水のおばしまにわかきうれひの袂の長き

299/399
舞姫(1/2)2/10

くれなゐの扇に惜しき涙なりき嵯峨のみじか夜暁寒かりし

300/399
舞姫(1/2)3/10

朝を細き雨に小鼓おほひゆくだんだら染の袖ながき君

301/399
舞姫(1/2)4/10

人にそひて今日京の子の歌をきく祇園清水春の山まろき

302/399
舞姫(1/2)5/10

くれなゐの襟にはさめる舞扇酔のすさびのあととめられな

303/399
舞姫(1/2)6/10

桃われの前髪ゆへるくみ紐やときいろなるがことたらぬかな

304/399
舞姫(1/2)7/10

浅黄地に扇ながしの都染九尺のしごき袖よりも長き

305/399
舞姫(1/2)8/10

四条橋おしろいあつき舞姫のぬかささやかに撲つ夕あられ

306/399
舞姫(1/2)9/10

さしかざす小傘に紅き揚羽蝶小褄とる手に雪ちりかかる

307/399
舞姫(1/2)10/10

紅梅に金糸のぬひの菊づくし五枚かさねし襟なつかしき

308/399
🔒

舞姫(1/2)

10スナック

舞姫(2/2)
舞姫(2/2)1/11

舞ぎぬの袂に声をおほひけりここのみ闇の春の廻廊

309/399
舞姫(2/2)2/11

まこと人を打たれむものかふりあげし袂このまま夜をなに舞はむ

310/399
舞姫(2/2)3/11

三たび四たびおなじしらべの京の四季おとどの君をつらしと思ひぬ

311/399
舞姫(2/2)4/11

あてびとの御膝へおぞやおとしけり行幸源氏の巻絵の小櫛

312/399
舞姫(2/2)5/11

しろがねの舞の花櫛おもくしてかへす袂のままならぬかな

313/399
舞姫(2/2)6/11

四とせまへ鼓うつ手にそそがせし涙のぬしに逢はれむ我か

314/399
舞姫(2/2)7/11

おほつづみ抱へかねたるその頃よ美き衣きるをうれしと思ひし

315/399
舞姫(2/2)8/11

われなれぬ千鳥なく夜の川かぜに鼓拍子をとりて行くまで

316/399
舞姫(2/2)9/11

いもうとの琴には惜しきおぼろ夜よ京の子こひし鼓のひと手

317/399
舞姫(2/2)10/11

よそほひし京の子すゑて絹のべて絵の具とく夜を春の雨ふる

318/399
舞姫(2/2)11/11

そのなさけ今日舞姫に強ひますか西の秀才が眉よやつれし

319/399
🔒

舞姫(2/2)

11スナック

春思(1/8)
春思(1/8)1/10

いとせめてもゆるがままにもえしめよ斯くぞ覚ゆる暮れて行く春

320/399
春思(1/8)2/10

春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ

321/399
春思(1/8)3/10

夜の室に絵の具かぎよる懸想の子太古の神に春似たらずや

322/399
春思(1/8)4/10

そのはてにのこるは何と問ふな説くな友よ歌あれ終の十字架

323/399
春思(1/8)5/10

わかき子が胸の小琴の音を知るや旅ねの君よたまくらかさむ

324/399
春思(1/8)6/10

松かげにまたも相見る君とわれゑにしの神をにくしとおぼすな

325/399
春思(1/8)7/10

きのふをば千とせの前の世とも思ひ御手なほ肩に有りとも思ふ

326/399
春思(1/8)8/10

歌は君酔ひのすさびと墨ひかばさても消ゆべしさても消ぬべし

327/399
春思(1/8)9/10

神よとはにわかきまどひのあやまちとこの子の悔ゆる歌ききますな

328/399
春思(1/8)10/10

湯あがりを御風めすなのわが上衣ゑんじむらさき人うつくしき

329/399
🔒

春思(1/8)

10スナック

春思(2/8)
春思(2/8)1/10

さればとておもにうすぎぬかづきなれず春ゆるしませ中の小屏風

330/399
春思(2/8)2/10

しら綾に鬢の香しみし夜着の襟そむるに歌のなきにしもあらず

331/399
春思(2/8)3/10

夕ぐれの霧のまがひもさとしなりき消えしともしび神うつくしき

332/399
春思(2/8)4/10

もゆる口になにを含まむぬれといひし人のをゆびの血は涸れはてぬ

333/399
春思(2/8)5/10

人の子の恋をもとむる唇に毒ある蜜をわれぬらむ願ひ

334/399
春思(2/8)6/10

ここに三とせ人の名を見ずその詩よまず過すはよわきよわき心なり

335/399
春思(2/8)7/10

梅の渓の靄くれなゐの朝すがた山うつくしき我れうつくしき

336/399
春思(2/8)8/10

ぬしや誰れねぶの木かげの釣床の網のめもるる水色のきぬ

337/399
春思(2/8)9/10

歌に声のうつくしかりし旅人の行手の村の桃しろかれな

338/399
春思(2/8)10/10

朝の雨につばさしめりし鶯を打たむの袖のさだすぎし君

339/399
🔒

春思(2/8)

10スナック

春思(3/8)
春思(3/8)1/10

御手づからの水にうがひしそれよ朝かりし紅筆歌かきてやまむ

340/399
春思(3/8)2/10

春寒のふた日を京の山ごもり梅にふさはぬわが髪の乱れ

341/399
春思(3/8)3/10

歌筆を紅にかりたる尖凍てぬ西のみやこの春さむき朝

342/399
春思(3/8)4/10

春の宵をちひさく撞きて鐘を下りぬ二十七段堂のきざはし

343/399
春思(3/8)5/10

手をひたし水は昔にかはらずとさけぶ子の恋われあやぶみぬ

344/399
春思(3/8)6/10

病むわれにその子五つのをととなりつたなの笛をあはれと聞く夜

345/399
春思(3/8)7/10

とおもひてぬひし春着の袖うらにうらみの歌は書かさせますな

346/399
春思(3/8)8/10

かくて果つる我世さびしと泣くは誰ぞしろ桔梗さく伽藍のうらに

347/399
春思(3/8)9/10

人とわれおなじ十九のおもかげをうつせし水よ石津川の流れ

348/399
春思(3/8)10/10

卯の花を小傘にそへて褄とりて五月雨わぶる村はづれかな

349/399
🔒

春思(3/8)

10スナック

春思(4/8)
春思(4/8)1/10

大御油ひひなの殿にまゐらするわが前髪に桃の花ちる

350/399
春思(4/8)2/10

夏花に多くの恋をゆるせしを神悔い泣くか枯野ふく風

351/399
春思(4/8)3/10

道を云はず後を思はず名を問はずここに恋ひ恋ふ君と我と見る

352/399
春思(4/8)4/10

魔に向ふつるぎの束をにぎるには細き五つの御指と吸ひぬ

353/399
春思(4/8)5/10

消えむものか歌よむ人の夢とそはそは夢ならむさて消えむものか

354/399
春思(4/8)6/10

恋と云はじそのまぼろしのあまき夢詩人もありき画だくみもありき

355/399
春思(4/8)7/10

君さけぶ道のひかりの遠を見ずやおなじ紅なる靄たちのぼる

356/399
春思(4/8)8/10

かたちの子春の子血の子ほのほの子いまを自在の翅なからずや

357/399
春思(4/8)9/10

ふとそれより花に色なき春となりぬ疑ひの神まどはしの神

358/399
春思(4/8)10/10

うしや我れさむるさだめの夢を永久にさめなと祈る人の子におちぬ

359/399
🔒

春思(4/8)

10スナック

春思(5/8)
春思(5/8)1/10

わかき子が髪のしづくの草に凝りて蝶とうまれしここ春の国

360/399
春思(5/8)2/10

結願のゆふべの雨に花ぞ黒き五尺こちたき髪かるうなりぬ

361/399
春思(5/8)3/10

罪おほき男こらせと肌きよく黒髪ながくつくられし我れ

362/399
春思(5/8)4/10

そとぬけてその靄おちて人を見ず夕の鐘のかたへさびしき

363/399
春思(5/8)5/10

春の小川うれしの夢に人遠き朝を絵の具の紅き流さむ

364/399
春思(5/8)6/10

もろき虹の七いろ恋ふるちさき者よめでたからずや魔神の翼

365/399
春思(5/8)7/10

酔に泣くをとめに見ませ春の神男の舌のなにかするどき

366/399
春思(5/8)8/10

その酒の濃きあぢはひを歌ふべき身なり君なり春のおもひ子

367/399
春思(5/8)9/10

花にそむきダビデの歌を誦せむにはあまりに若き我身とぞ思ふ

368/399
春思(5/8)10/10

みかへりのそれはた更につらかりき闇におぼめく山吹垣根

369/399
🔒

春思(5/8)

10スナック

春思(6/8)
春思(6/8)1/10

ゆく水に柳に春ぞなつかしき思はれ人に外ならぬ我れ

370/399
春思(6/8)2/10

その夜かの夜よわきためいきせまりし夜琴にかぞふる三とせは長き

371/399
春思(6/8)3/10

きけな神恋はすみれの紫にゆふべの春の讃嘆のこゑ

372/399
春思(6/8)4/10

病みませるうなじに繊きかひな捲きて熱にかわける御口を吸はむ

373/399
春思(6/8)5/10

天の川そひねの床のとばりごしに星のわかれをすかし見るかな

374/399
春思(6/8)6/10

染めてよと君がみもとへおくりやりし扇かへらず風秋となりぬ

375/399
春思(6/8)7/10

たまはりしうす紫の名なし草うすきゆかりを歎きつつ死なむ

376/399
春思(6/8)8/10

うき身朝をはなれがたなの細柱たまはる梅の歌ことたらぬ

377/399
春思(6/8)9/10

さおぼさずや宵の火かげの長き歌かたみに詞あまり多かりき

378/399
春思(6/8)10/10

その歌を誦します声にさめし朝なでよの櫛の人はづかしき

379/399
🔒

春思(6/8)

10スナック

春思(7/8)
春思(7/8)1/10

明日を思ひ明日の今おもひ宿の戸に倚る子やよわき梅暮れそめぬ

380/399
春思(7/8)2/10

金色の翅あるわらは躑躅くはへ小舟こぎくるうつくしき川

381/399
春思(7/8)3/10

月こよひいたみの眉はてらさざるに琵琶だく人の年とひますな

382/399
春思(7/8)4/10

恋をわれもろしと知りぬ別れかねおさへし袂風の吹きし時

383/399
春思(7/8)5/10

星の世のむくのしらぎぬかばかりに染めしは誰のとがとおぼすぞ

384/399
春思(7/8)6/10

わかき子のこがれよりしは鑿のにほひ美妙の御相けふ身にしみぬ

385/399
春思(7/8)7/10

清し高しさはいへさびし白銀のしろきほのほと人の集見し(酔茗の君の詩集に)

386/399
春思(7/8)8/10

雁よそよわがさびしきは南なりのこりの恋のよしなき朝夕

387/399
春思(7/8)9/10

来し秋の何に似たるのわが命せましちひさし萩よ紫苑よ

388/399
春思(7/8)10/10

柳あをき堤にいつか立つや我れ水はさばかり流とからず

389/399
🔒

春思(7/8)

10スナック

春思(8/8)
春思(8/8)1/10

幸おはせ羽やはらかき鳩とらへ罪ただしたる高き君たち

390/399
春思(8/8)2/10

打ちますにしろがねの鞭うつくしき愚かよ泣くか名にうとき羊

391/399
春思(8/8)3/10

誰に似むのおもひ問はれし春ひねもすやは肌もゆる血のけに泣きぬ

392/399
春思(8/8)4/10

庫裏の藤に春ゆく宵のものぐるひ御経のいのちうつつをかしき

393/399
春思(8/8)5/10

春の虹ねりのくけ紐たぐります羞ひ神の暁のかをりよ

394/399
春思(8/8)6/10

室の神に御肩かけつつひれふしぬゑんじなればの宵の一襲

395/399
春思(8/8)7/10

天の才ここににほひの美しき春をゆふべに集ゆるさずや

396/399
春思(8/8)8/10

消えて凝りて石と成らむの白桔梗秋の野生の趣味さて問ふな

397/399
春思(8/8)9/10

歌の手に葡萄をぬすむ子の髪のやはらかいかな虹のあさあけ

398/399
春思(8/8)10/10

そと秘めし春のゆふべのちさき夢はぐれさせつる十三絃よ

399/399